琉球玩具から希少種のタイプ標本まで、琉球列島のユニークな大学博物館②

~琉球畳の原料「七島い」に出会う~

風樹館の「学校ビオトープ見本園」を行くと田んぼやターンム畑の先に、もう県内では栽培されることがなくなった琉球畳の畳表に使用された「七島い(シチトウイ=シチトゥイ)」が栽培されていました。琉球畳というと「縁なしの半畳で、市松模様にならべる」という認識が一般的かもしれません。最近はデザイン的にモダンな印象が評判で全国的なブームになっています。本土の専門の畳屋さんによると、たんに縁なしの畳が琉球畳ではなく、畳表に「シチトウイ」を使用しているものが本来の「琉球畳」だということです。

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▲風樹館ビオトープに栽培されているシチトウイ

シチトウイのシチトウとは七島のこと。トカラ列島、現在の鹿児島県十島村の人間が住んでいる七島(口之島、中之島、諏訪之瀬島、悪石島、平島、小宝島、宝島)から、カヤツリグサ科の植物を大分県の商人が持ち帰ったことからシチトウイと呼ばれるようになったといいます。当時、琉球にも多く自生していたことから「琉球い=サチイ」とも呼ばれていたようです。現在、国内では大分県の国東地方だけで生産されているようです。中国産のシチトウイを使用した琉球畳もあるようですが、希少で高価な国産シチトウイにこだわるユーザーもいるようです。

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▲い草の茎断面は円形だがシチトウイは三角形になっている。根本に近いほどに丸みを帯びてくる

風樹館の佐々木先生の許可を得てもらってきたシチトウイ3本を缶コーヒーのアルミの空き缶に生けて眺めています。色、艶、手触り、香りがよいと本土の人々を魅了し、強く耐久性があることから講道館の柔道用の青畳として採用されたのが「琉球畳」です。県内ではいまでもシチトウイは自生しているようですが、なぜ「琉球畳」の地元沖縄では栽培されなくなったのか……。県内でのシチトウイと「琉球畳」の現状を伺いに、風樹館に「琉球畳」のサンプルを提供した大山タタミ店の大山廣社長を訪ねました。インタビューのもようは次回にお伝えします。

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▲宜野湾市野嵩にある大山タタミ店。創業41年、従業員19人の大きな老舗タタミ店だ

琉球玩具から希少種のタイプ標本まで、琉球列島のユニークな大学博物館①

~はじめて風樹館(琉球大学資料館)を訪ねました~

以前から気になっていた風樹館をはじめて訪ねました。広い琉球大学の構内を迷いながらようやくたどり着いた建物は、意外にも中世の教会堂か音楽ホールかと思わせる赤レンガ造りの堂々とした佇まいを見せていました。設計は、那覇市民会館など琉球建築の様式を現代建築に取り入れたことで著名な建築家金城信吉氏が晩年に手がけたもの。この建物を見るだけでも価値がありそうです。

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▲風樹館の正面。外壁に赤レンガ使用され不思議な存在感がある

館内に入ると吹き抜けの高い天井のあるホールを中心に、右側が自然系の標本類、左側に琉球玩具をはじめ、復元前の首里城の瓦や藁算資料など文化に関する常設展示コーナーが設置されています。とくに琉球の希少動物・昆虫のタイプ標本や岩石・サンゴ類の標本などは、琉球大学の研究者が収集した貴重なものばかり。琉球列島各地で収集された約4万点余の標本や資料が収蔵されており、写真でしか見たことのない絶滅危惧種など、剥製と骨格標本が並んで展示されています。ヤンバルテナガコガネやキクザトサワヘビなど、「しまたてぃ」の表紙に登場した琉球の希少種の標本類に対面できて少し興奮しました。

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▲学校ビオトープ見本園。小学生の総合学習や教員の研修などに活用されている

建物の東側には「学校ビオトープ見本園」が設置されています。とんぼ池や小さな田んぼ、ターンム畑が普通の原っぱの周りに配置され、懐かしい風景が凝縮されている感じで、時間に余裕があればもっとゆっくり過ごしたい思いに駆られました。しばらく散策していると、このビオトープで思いがけない植物を見つけました。その植物についてのストーリーは次回で……。

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▲学校ビオトープ見本園ガイドブック。写真・イラストが効果的に使われ親しみやすい編集になっている